天空の城「ラピュタ」へ
9/3(月)
朝4時。念のため早めにセットした目覚ましが鳴る前にふと目が覚めてしまった。この研ぎ澄まされた感覚はすばらしい。
バス停までタクシーで行くが、案内板もバスの行き先も、チケットもすべてがアラビア文字。ずらっと並んだバスを数えながら歩き回った。英語を話せる人はほとんどいなくて、ジェスチャーでたどり着いたバスに乗ってみることにした。2時間後にたどり着いた街はホムスだろうか。
「ホムス?」
「Yes,ホムス」
途中下車してみることにした。このバスターミナルから、シュバリエ行きのマイクロバス(12人乗りくらい)があるターミナルまでセルビス(乗り合いタクシー。8人乗りくらい)で行かなければならない。ややこしいが、固有名詞を並べていろんな人に繰り返し聞いて歩いた。
「クラック・デ・シュバリエ行きのマイクロバスは、あのセルビスに乗るんだよ。ちょっと待って。ピュー!」
アラビア語だったが、そう言っただろうその男は、口笛を大きく鳴らして、反対車線を走っていたセルビスを止めてくれた。「シュクラン!(ありがとう)」そう言って、ぼくは行き交う車の間を縫って反対車線に走り、そのセルビスに飛び乗った。
ここらへんの感覚はRPGだ。いろんな話を聞いて、その方向に歩けばゴールは見つかるものだ。
10シリアポンド(約25円)払ってたどり着いた場所はまさにスラム街という感じ。人も車も道も街もぐちゃぐちゃで、場違いなぼくがひとり浮いていた。
バスバスバスバス・・・100台くらいある中で、またもやどれに乗るのかさっぱり分からないが、バクシーシ目当ての子供たちに連れられて、シュバリエ行きのセルビスにたどり着いた。しかし、セルビスは待てども出発しない。そういえば、このバスは満員にならないと出発しない合理的な乗り物だったことを思い出した。「クラックデシュバリエ!クラックデシュバリエ!」ドライバーが外で叫んでいる。結局その10人乗りのバスは、14人と荷物を詰め込んで、乗ってから40分後に出発した。窮屈だ。
「ここだよ」
たどり着いた丘の上にひとつの城がたたずんでいた。これだ。入り口から薄暗い回廊を通って坂を上って行くが、さらに階段はあらゆる方向に続いている。小高い丘に立つこの城の立体感はまさに天空の城だ。何もない城なのに「ラピュタ」という枕詞だけで酔いしれてしまえるから不思議だ。ここで昨日会った日本人パッカーふたりに再会したので、お昼を共にした。
城からの帰りは丘を下るマイクロバス。嘘のようだが、ぼく以外は5人の日本人バックパッカー(出会った二人を含んで)が同じマイクロバスだった。それぞれが、それぞれに歩いているのに、方向が同じだと一緒に国境を越えたりするらしい。ここにはぼくと全く違う人生観が集結していた。
バスの終点、ホムスで再び一人になって、ダマスカスへのバスチケットを買い、ダマスカスに到着したのが17時過ぎ。ホテルに戻る前に、前日地図を見てわかったオールドダマスカスの「Straight Street」を歩いてみた。期待とはうらはらに、舗装された単なる道だったことがやたらと空しい。
19時、荷物を持って再びバスターミナルへ。ここにいるタクシーをつかまえて、いよいよヨルダン入国だ。所要時間約3時間。一日は果てしなく続くように思えた。